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続・日本振興銀行へのSFCGの貸付債権譲渡(二重譲渡問題)

さて、日本振興銀行とSFCGの件についてその2です。ついにSFCGの破産の開始決定が出ました。
SFCG破産手続き開始決定 管財人「民事・刑事で責任追及」

破産管財人に選任された瀬戸英雄弁護士は、同社が2月に民事再生法の適用を申請する直前の数カ月間に2670億円以上の債権や株式を親族会社などに無償もしくは廉価で譲渡していた事実を明らかにし、「大島健伸前社長らSFCGの旧経営陣の責任を民事・刑事の両方で追及していく」と述べた。

詐害行為否認で譲渡された財産を破産財団に戻すのは当然として、特別背任罪・詐欺再生罪も視野に入って来ますね。

ところで、最近、日本振興銀行問題で弊ブログを訪れてくださる方が結構おられるようです。ありがとうございますm(_ _)m 前回の記事を見直して、我ながら不親切な点もあるかなと思いましたので、もう少し丁寧に説明したいと思います。
(ただし、あくまで公表資料に基づく私の勝手な推測ですので、投資等のご判断はご自身で行ってください。また、法律問題は弁護士にご相談ください)

「そもそも債権譲渡のときの対抗要件てなんだ?」という方のために簡単に説明しようかと思ったのですが、民事局のHPになかなか良い説明がありましたので、そちらをご参照くださいw

私なりに今回の問題点を列挙しますと、①二重譲渡がなされていたのか、②二重譲渡の対抗要件の優先問題、③日本進行銀行のリリースの問題点、④日本振興銀行の保全問題、⑤サービサーはどうなっているのか、⑥借入人との関係、といったあたりだと思います。

二重譲渡の存否について

まずは、そもそも二重「譲渡」があったのか、日本振興銀行(以下「NSB」といいます。実際の英語名ですとIBJになりそうですが、興銀と紛らわしいので)の「認識」のとおり二重譲渡はなかったのかです。二重譲渡がなかったのであれば、新聞の誤報になります。ただ、この点はSFCG側で調べれば、時間はかかるかも知れませんが分かるはずです。そして、SFCGの保全管理人(民事再生手続時は監督委員で、破産開始決定後は破産管財人)の先生が報道陣の前で二重譲渡があったとおっしゃっているので、なかったと見るのは難しいのではないかなと思います。-参考:産経の記事

対抗問題について

仮に二重譲渡があって、それがNSBと報道に出ている信託銀行(複数行とは思いますが、以下「A信託」といいます)とになされていたとすると、NSBとA信託のどちらが権利者として認められるのかという点が問題となります(対抗要件の優先問題)。

この点については、原則として、NSBが、

①SFCGの有していた貸付債権の借入人(多数いますが、ここでは便宜的に「Sさん」とします)に対して、債権譲渡をした旨の確定日付が付された通知(内容証明郵便が一般です)を行う、
②Sさんから確定日付が付された承認(公証人に確定日付をもらいます)を得る、または
③債権譲渡を登記する、

のいずれかを行っていた場合で、A信託が①~③のいずれもしていなかった場合には、NSBが晴れて権利者としてA信託に優先することとなります(もちろん逆もしかり)。

仮に、両者とも①~③のいずれかを行っていた場合には、①もしくは②の確定日付または③の登記日付のいずれが先かで優先順位を決めます。(って、結局説明してしまったw)

となると次の問題は、こちらの記事にあるようにA信託も登記をしていたのかです(NSBは、こちらのリリースによれば登記をしていたようなので)。

そして、一般に信託銀行が銀行勘定で貸付債権のプールを持つことは少なく、債権流動化・証券化の場合の箱として信託勘定で受けている場合が多いことや、実際にSFCGの有価証券報告書に貸付金を有する者として出ている信託銀行のうちの一行が、貸付金は証券化によるものだと説明していたことから(前の記事でリンクしていたのですが、切れてしまいました)、二重譲渡の相手方としてのA信託の取得も債権流動化・証券化によるものなのではないかと推測されます。この推測が正しいとすると、債権流動化・証券化の場合には、多数の債権を譲り受けることが多く、また、債務者に債権譲渡の事実を認識されなくて済む登記を選択するので、A信託は登記を行っていたのではというように思えるわけです。信託銀行が登記を失念していたら、受託者の善管注意義務違反なので、まともな信託銀行であれば通常は考えづらいところです。

というわけで、両者とも登記をしていたと仮定すると、次に問題になるのは登記日付の先後です。こちらの東洋経済の記事では、

今回の重複譲渡では、日本振興銀行よりも先に証券化スキーム向けの債権譲渡が行われたケースがほとんどだった。

とされています。ま、これは追々明らかになるでしょう。

ところで、NSB、A信託のいずれが先だったにせよ、譲渡を受ける前の登記の確認が実際どうだったのかは皆様気になるところでしょう。SFCGからNSBに対する債権譲渡契約やA信託に対する信託契約には、SFCGの表明保証条項として「譲渡人は債権を譲渡する権限を持っていること」、「第三者に譲渡されていないこと」というようなものを入れていると思いますが、金融機関同士の大量の債権の取引ということで、それらの条項に依拠して、登記事項の詳細までSFCGから求めなかったのではないかと思います(これは、実務慣行的にはアリだったように理解していますが、当然今回のようにSFCGが倒産してしまうと表明保証はほとんど意味なしです(債権が不適格だったことによる買戻しという対応もありますが、こちらも倒産時はほとんど意味なし)。なお後述の保証人に対する履行請求の可能性はあります)。

今後の実務上は、直近時点での登記がないことの証明書又は登記事項証明書の交付、及び、上記の表明保証が真実であることを譲渡実行の前提条件にすることが一つの対応になりそうですが、譲渡対象の貸付債権が大量になると証明書の交付手数料もかかりますし…。今回の件はこういう点でも実務の対応を悩ませそうです。

NSBのリリースについて

次に、NSBのリリースを取り上げたいと思います。

このリリースは、貸付債権の借入人であるSさんに対して聞き取り調査を行い、他の金融機関からは通知を受けていないことから、二重譲渡はなかった認識であると結論づけています。

これは正しい認識でしょうか?確かにSさんが何も知らないのであれば、A信託が上記の①や②の方法を採っている可能性は排除できるかもしれません。しかし、③については、NSBとA信託の間での優劣を決めるに当たっては、ひとまずSさんに対して通知をすることは求められていません(もちろんSさんに請求する段には通知が必要となる)。したがって、Sさんが何も知らなかったからといって、二重譲渡はなかった認識であると言ってしまうのはどうなんだろうか、と思ってしまうわけです。③の可能性は?と思ってしまいます。しかも、報道にはA信託も登記をしているとまで出てしまっているわけですから、なおさら?となります。

NSBとしては、わざと知らないふりをしているか、③の手段がありうることを知らなかったのか(自身が登記しているのであればそんなことってないと思いますけど・・・)、知っているけど顧客に安心感を与えるために「認識」として逃げているかのいずれかなのではないかと色々考えてしまいます。顧客の安心感という線が濃厚な気がしますが、実際どうなんでしょうね。いずれにせよ、ミスリーディングだとは言われてしまいそうです。

NSBの保全措置について

まずはこちらのリリースを。

これによれば、NSB側としては、

  • 上場株式担保等約200億円、上場企業等による保証約200億円、不動産その他約200億円を担保及び保証として確保
  • 買取債権とは別個の貸出債権を譲渡担保として登記
  • SFCGとの買取債権の購入契約に関し、第三者の保証会社との再保証契約

という保全措置をしているので問題なしとのことです。

で、こちらがSFCGが民事再生を申立てた時のリリース

  • 株式会社SFCGから保証を取り付けた上で・・・
  • SFCGのデフォルトリスクに備えるため、保証債務に対する担保を徴求しており、保全の水準は保証債務全体の7割程度・・・
  • 本年1月に第三者の保証会社と当該貸出債権に関する再保証契約を締結・・・

とあります。

さらに、こちらのリリースでは、一部の貸出債権について、株式会社MAGねっとその他2社と保証契約を締結しているとあります。

一方のMAGねっとホールディングスのこちらのリリースよれば、180億円の貸出債権に関する保証の存在について争いが生じているとのことです。

この問題点については具体的に訴訟になっているので、細かいコメントは差し控えますが、ここでの疑問は、MAGねっとグループによる保証の対象となる主たる債務が良く分からないことです。主債務はSさんが有する各借入債務のようにも読めますし、SFCGがNSBに対して貸付債権譲渡契約上負う債務のようにも読めますし、SFCGの保証債務を主債務としているようにも読めます。いずれなのかによって、NSBのMAGねっとグループに対する請求やSFCGの破産手続きへの対応が変わってくるはずなので、結構重要です(特にA信託に対抗問題で負けていた場合)。

サービサー交代について

この問題は、A信託への譲渡が信託譲渡であってそれが証券化絡みだということが前提での話です。

貸付債権の証券化の場合、オリジネーターから信託銀行に債権が譲渡された後も、業務を良く知っているオリジネーターに対して回収業務が委託されることが一般的だと思います(実は今回もそうなのかは分からないのですが。そういう前提でいきます)。証券化後も外形上は今までの貸主に返済を続けるので、借入人であるSさんが混乱しなくて済むというメリットがあります。

とはいえ、回収業者でもあるオリジネーターに信用不安事由が生じた場合には、そんな会社に投資家に回るはずの回収金を扱わせていられないということで、通常は、予めバックアップの回収業者を指名しておき、信用不安事由発生と同時に回収業務委託は解除され、バックアップの業者に業務委託がなされるような建て付けとなっています。

その信用不安事由の一つとして、「オリジネーターについて倒産手続きの申し立てがなされたこと」というものがよくあるのですが、S57年の最高裁判決とも関連して、このような解除条項の有効性に関する議論があります。

今回は、結局破産開始決定が出てしまい、破産開始決定はサービシング契約のような委任契約の当然終了事由なので、あまり問題にはならないかもしれませんが、それでも、民事再生申し立て時にどのような対応がなされ、その時点から破産開始決定までの回収金はどう処理されているかは気になるところではあります。

また、バックアップ回収業者に移行していたと仮定した場合、通常は、借入人であるSさんに対しても債務者対抗要件具備のために、登記事項証明書を添えて通知がなされることになると思います。それがなされているとすると、登記の先後関係によってはSさんに対抗できなくて・・・保証が(ry ということもありえます。こんなこともあって、保証の主債務が何かは重要なんです。

しかし、、この記事にあるような強引な取立てや書面の送付って誰がやっているのだろうか・・・

借入人との関係

借入人との関係での問題は大きく分けて、誰に弁済すべきか、過払金返還請求権はどうなるのか、というあたりになろうと思います。

まず、誰に返せばよいのかという点については、債権譲渡に関する通知を含めて微妙な判断になるので、弁護士に相談されたほうがよろしいかと思います。借主毎の個別事情が重要で、一般的な話をして混乱が生じることは本意ではないので、割愛します。

過払い金返還請求権については、SFCGが倒産してしまった以上、債権の譲受人に対して請求していきたいところでしょう、、、書きたいことはありますが、万一差し障りがあっても困るので、自粛します。このあたりは過払い金返還訴訟ご専門の弁護士がおられると思うので、気になる方はそちらにご相談くださいまし。

何やら最後のところは歯切れが悪くて申し訳ないのですが、できるだけ前回のエントリを敷衍して、詳しく説明してみたつもりです。参考になりますれば。

ではでは。

 

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コメント

[C18] 借入人との関係、過払い金

借入人との関係、譲渡債権の過払い金の問題、契約解除権の問題、信託譲渡など、以下などにありましたが、いまいち、わかりません。
http://consumerloan.blog.shinobi.jp/Entry/109/
http://consumerloan.blog.shinobi.jp/Entry/112/
http://consumerloan.blog.shinobi.jp/Entry/110/
http://consumerloan.blog.shinobi.jp/Entry/111/
http://consumerloan.blog.shinobi.jp/Entry/119/
  • 2009-04-27 19:57
  • つよし
  • URL
  • 編集

[C19] Re: 借入人との関係、過払い金

>つよしさん

コメントありがとうございます。

報道等で情報が錯綜しているのでホントよく分からないです。当事者はもっと大変だと思いますが…。
  • 2009-04-29 00:04
  • lenzabile
  • URL
  • 編集

[C20] 信託はなぜ訴えをおこせ(or otherwise おこさ)ないのか

当初の3月末のご指摘、そしてこのノートから、すでにひと月がたちました。理論的には正しいのでしょう。しかし、信託銀行が譲渡登記で優先しても、
①債権の帰属をめぐり、確認訴訟を提起して(原因なく不当に利得された回収金の引渡しの給付請求の訴えもともなう)、振興銀行と争わなければ、
②そして債務者通知と貸金業法24条2項通知を送付されない限り、 
債務者対抗要件を満たされている以上、このままに放置しても、振興銀行が任意に返してくれる様子でもなし、実務上勝てないのではないでしょうか。信託銀行はなぜ訴えを起こさないのでしょうか。まだ投資家金利を払うだけの準備金があるから、様子見でしょうか。
信託側に(信託財産及び受託者ともに、また別々の理由で)劣位譲受人と争えない何か理由があるとすれば、それは負けではないでしょうか。すなわち、信託財産がゼロのほうが確認訴訟して、信託財産を取り戻すよりも、経済的に有利な状況が発生しているのではないかと、うがってしまいます。
様子見といっても、破産財団資産とは関係がない資産でしょうから、いずれ契約終了になる回収受託契約を除き、管財人が関与するとも思えません。

[C21] 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

[C22] Re: 信託はなぜ訴えをおこせ(or otherwise おこさ)ないのか

>つよしさん

詳細な事実関係が外部からは不明ですので、各当事者がどう対応しているか(すべきか)についてはコメントしづらいというのが正直なところです。悪しからず。
  • 2009-06-03 22:10
  • lenzabile
  • URL
  • 編集

[C23] つよし

一受託者で1万件の信託譲渡があるとし、2重登記が15%に発生し、自分が時間的に登記が優先したとします。劣位登記者に対して、確認訴訟を提起する場合、訴訟物は1500件ということになり、被告が争う意思を表示してきた場合、法廷は1500回、別々の弁論の場となるのでしょうか。被告が同じであれば、手続き併合は認められるのでしょうか。
もし個別訴訟しかできないとなれば、数千件単位でなされる債権譲渡登記制度は、訴訟制度では救済されず、機能不全になり、手続き上、優先権確定できる方法と言えるのでしょうか。訴えが出ていないとすれば、実体権が手続き上の確認されない実現不能状態しか思い浮かびません。信託銀行には、大手渉外法律事務所が顧問でしょうから。
訴訟実務の基本に誤りがあるのかもしれません。

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Author:lenzabile
M&Aとファイナンスを扱う弁護士です。現在海外(米国)勤務中。法律やビジネスについて思いつきを備忘録的にブログに書いていくつもりです。また、出身の関西も気になりますので、そちらの話題も追いかけます。

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